福よし
酒場ナビ
2021/10/14
茶色に褪せた店内、酒沁みのカウンター、手書きのメニュー札、酎ハイと笑い声……私の慣れている〝ザ・大衆〟が、山の手の中心に何食わぬ顔で在ったのだ。 大衆酒場の代表料理といえば『煮込み』を外せないが、注目すべきはモツ肉の色だ。そんじょそこらの店に、この茶褐色を出せるわけがない。一つまみして口へと入れる。ウマい、かなりウマい。歯にまったく抵抗なくして、舌の上でトロける。同時に濃い目に沁み込んだ醤油味が、モツの風味を存分に引き立てる。仕上がっている煮込みとは、こいつのことだ。 『タン・カシラ・子袋刺し』の肉々しさはどうだ。まるで洗練された肉体美のようだ。まずはタンから、大事にゆっくり顎あごを動かしながら頬張る。サクッ……サクッ……新鮮なタンの食感、ネトッ……トロッ……カシラの濃厚な旨味、コリッ……シコッ……子袋はニンニクとネギ多めが大正解。うめぇ、うめぇ過ぎる。こいつは〝うめぇ〟の全部が乗った夢の皿だ。 (2021年4月の緊急事態宣言以前に取材したものです。現在の営業状況は各店にお問い合わせください。) [著者]味論 saka-navi.com/archives/44047
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